今回は、サムットプラカーンのスター選手MFチャルーンサク・ウォンコーン(jaroensak wonggorn)について、2020年の活躍を振り返り、今後のステップアップについて解説していく。
チャルーンサク・ウォンコーンの2020年の活躍と今後の期待
2020年、23歳のウィンガー、チャルーンサクがシニア代表デビューを果たし、AFC U23選手権ではトップスコアラーを獲得した。
現在は、タイリーグのアシストチャートにて7アシストで2位につけている。
タイ国内リーグの強豪がチャルーンサクを獲得しようと求めているが、ファンは、彼が次のJ1昇格候補になる事を期待している。
しかし、チャルーンサクをこれほどまでに危険な存在にしているのは一体なんなのか、そしてどうすれば彼の可能性を最大限に引き出す事が出来るのか?
バーンプリーの静かな夜、サムットプラカーンとポートとの間に9ゴールの激闘があり、2020年最後の試合に別れを告げる事となった。
サムットプラカーンは、試合開始10分に2度の得点を奪い、6-3で勝利し試合を終える事となった。
また、チャルーンサクはこの試合で、ゴールと2アシストでマン・オブ・ザ・マッチ賞を受賞した。
SMMSPORTによると、ポートのヌアンパン・ラムサム(Nualphan Lamsam)会長は、クラブの10試合連勝を終えた選手の為に豪華な案をすでに準備しているようだ。
一方、チャルーンサクは、日本のクラブチームに移籍する事が最終目標ではあるが、今の場所にも満足しているとサムットプラカーンのサポーターを安心させた。
チャルーンサクは、目を見張るようなパフォーマンスを披露した後、チャンスクに「来る日も来る日も努力している。J1リーグに出場するチャンスが来たときの為に、たくさん練習するだけだ。可能かどうかは分からないが、必ず出場出来るように頑張る」と語った。
チャルーンサクのゴールとアシストを調べる事で、彼のゲームをより良く描き、長所、短所、および改善すべき点を明確にする事ができる。
したがって、うまくいけば、チャルーンサクを取り巻く誇大広告や、過去1年間の彼の活躍、そしてファンが期待している次の大きな出来事がなんであるかを理解する事が出来るだろう。
* 2020タイリーグシーズンから第16節までの彼の統計と記録、および2020 AFCU23選手権のみを考慮している。
強さ:すべての左バックにとっての悪夢
誰もが直ちに気づくべきなのは、チャルーンサクがボールを持っていても持っていなくても、ほとんど手が付けられないほどのスピードを持っている事だ。
特にカウンター攻撃の状況では、彼が卓越したボールキャリアである事は当然の事である。
たとえば、第7節のPTプラチュアップ戦と第16節のポート戦では、ハーフウェイライン上でボールを受けたチャルーンサクが、相手ゴールに向かって振り向きざまに走り、簡単なパスを出してアシストしている。
特にPTプラチュアップ戦では、ハーフウェイラインから相手チームのペナルティーエリアに到達するまでに、チャルーンサクは5秒で到達する凄まじい能力を示した。
チャルーンサクは、2020年のタイU23とサムットプラカーン戦で、ゴールとアシスト(GA)が12回のうち10回を記録している事からも分かるように、オープンプレーでの違いを生み出す存在である。
オープンプレーでのGA10回の内、中央エリアから3回、右中央エリアから3回、右サイドエリアから3回、1回だけが左サイドエリアからとなった。
これは右サイドでのチャルーンサクの有効性を示しており、クラブレベルでは石井正忠監督、国内レベルでは西野朗監督が、それぞれ主に起用している。
チャルーンサクの10回のオープンプレーGAの内、7回はカウンターアタックの状況であった。
これは、チャルーンサクのカウンター能力の高さを示している。
チャルーンサクはバーレーン戦で2ゴール
チャルーンサクの7回のカウンターアタックの内、4回はディフェンスラインの背後にあるスペースへのスルーパスから始まり、3回は右中央エリアからで、1回は右サイドからと、彼と彼のチームメイトは、スペースの使い方をよく理解している。
カウンターアタックの場面で、スルーパスを受けたチャルーンサクは、AFCU23選手権のグループステージでのバーレーン相手に2ゴールを挙げた。
強さ:現代のゲームに見られる典型的な特徴
強烈な右足と同じサイドでプレーするウィンガーとして、チャルーンサクがインサイドフォワード(FWアリエン・ロッベン〈Arjen Robben〉またはFWモハメド・サラー〈Mohamed Salah〉など)として活躍するのは難しい。
その代わりに、チャルーンサクは、現代のゲームではやや典型的なウィンガーとして活躍している。
チャルーンサクは、タッチラインを固く守り、1対1の勝負で相手を打ち負かそうとしなくても、ボックス内に、躊躇なくクロスを入れる事が出来る。
これまでのところ、チャルーンサクは、クロスから4アシストを記録している。
彼の最初のクロスアシストは第7節に行われたゲームで、左サイドからのインスイングのフローティングボールだった。
これは、チャルーンサク唯一の、左サイドからのアシストである。
彼の2回目と3回目のクロスアシストは、BGパトゥム(第9節)戦で、前者では、チャルーンサクのクロスで先制し、後者では、フリーキックを受けた後、素早く低いクロスを打った。
4回目のクロスアシストは、直近のポート戦で見られた。
チャルーンサクは、右側の広いスペースでルーズボールを拾い、チームメイトがシュートを打てるよう時間と空間を調整した。
興味深いことに、チャルーンサクのクロスアシストの4つのうち3つは、中央の5.5メートルのボックスエリアを狙ったもので、BGパトゥム戦でのクイックセットプレーを除けば、3つすべてがフローティングボールによるものだった。
これは、チャルーンサクが好む「ターゲットエリア(中央/ 5.5メートル)」と、クロスに関する彼の有効性を示しているが、一方で彼のゲームの限界をも示唆していると考えられる。
弱点:皮相的なウィンガーまたはスペシャリスト?
ワイドレンジとクロスをテーマとして掲げているが、2020年までのチャルーンサクは、左サイドからのオープンプレーで1アシストと、苦手な左足からのアシストを1回しか達成出来なかった事が少し心配だ。
これは主に、コーチが右ウィンガーとしてチャルーンサクを好んでいるとう事実によるものでもある。
最近のワイドアタッカーは、インサイドに切り込む為に、得意な足とは反対側のフィールドにいる事が多いが、それ自体が少し妙である。
チャルーンサクが右サイドで支持され、左サイドは軽視される理由は、彼のスピードと相手を追い抜く手段にあるのかもしれない。
チャルーンサクは、類稀なスピードの持ち主なので、相手を抜き去る技術を身につける必要がなかったことは明らかである。
彼は、一対一の状況でも、ボディフェイントで相手を欺いたり、方向転換でディフェンダーを振り切ろうとしたりはしない。
チャルーンサクは単純に、加速の緩急だけで勝てるのだ。
このテクニックは、相手と向かい合った場合でも、ほぼフルスピードで加速する事ができ、クロスを出す前に体の角度を調整する必要がほとんどないので、チャルーンサクのように、右サイドでは通用する。
また、ディフェンダーは、チャルーンサクにぶつからないようにスピードを落とす為、斜めまたは直角から彼に近づかなければいけないのだ。
そのため、チャルーンサクが近づいてくる程ディフェンダーは不利になり、彼がウィンガーとしての役割を効果的に発揮することが出来る。
一方で、チャルーンサクを左サイドに起用すると、まったく新しいゲームスタイルになるだろう。
率直に言うと彼の左足は、クロスにはほとんど役に立たないのだ。
つまり、左サイドでは同じテクニックが通用しない事になる。
これにより、チャルーンサクの勢いを止めてしまい、インサイドに追いやられる形になる事がある。
チャルーンサクが持つ、スピードと加速力の秘密の一端は、彼の体の姿勢、上半身の強さだ。
しかし、これは狭いスペースでの精密なボールコントロール能力の犠牲が伴う事になる。
チャルーンサクは、囲まれるとボールを奪われるという事がしばしば見られる。
1年を通して、左センターエリアからのオープンプレーで、ノーゴールまたは1アシストのみを記録している事から、精密なボールコントロール能力が欠点であると、さらに証明している事になる。
その為、ほとんどのコーチは、チャルーンサクの弱点を回避する為に、主に彼を右ウィンガーとしてフィールドに配置している。
その結果、チャルーンサクを、少々ワンパターンな選手にしているが、同時に強力なスペシャリストでもあるだろう。
弱点–シュートテクニックは彼の1対1の能力を妨げる
前述でも紹介したが、チャルーンサクは、カウンター特にスペースを利用する場合には、大きな脅威となる。
守備のセットプレーの時にも、チャルーンサクは、最前線に配置されており、いつでもカウンターアタックが出来る準備をしている。
しかし、チャルーンサクは1対1の状況で1ゴールしか決められていない。(AFC U23選手権のバーレーン戦での初ゴール)
彼のプレープロファイルを見ればもっと期待出来るはずだ。
チャルーンサクのシュートテクニックは、チャンスを活かす際の最大の課題である。
2020年の彼のゴールは、ペナルティを含む1点を除いて、全てが足の甲で蹴られた全力のシュートであった。
しかし、パワーが大きくなるにつれて、精度が低くなるようだ。
そういえば、チャルーンサクが狙いどころとはまた別の位置にシュートを放つのも、彼がゴールを決めきれていない大きな要因の1つである。
たとえば、ブリーラムU戦(第13節)でのゴールは、非常に狭い角度でのシュートであったが、GKシワラック・テースーンヌーン(Siwarak Tedsungnoen)にパワーで押し切り、幸運にも決める事が出来た。
また、ポート戦(第16節)でのゴールは、チャルーンサクはボックスの外からGKウォラウット・スリスファー(Worawut Srisupa)を破った。
チャルーンサクの豪快な一撃で油断したGKシワラック・テースーンヌーン(Siwarak Tedsungnoen)
通常、このような状況ではニアポストを狙った高めのシュートが効果的である(1:10)
どちらの場合も、キーパーはすでにニアポストを守っていた。
この場合、チャルーンサクのねらい目が、高かろうと低かろうと10回のうち9回はセーブできるはずだ。
では、チャルーンサクがイチかバチか試す価値はあったのか?恐らく答えはいいえである。
2つとも素晴らしいゴールではあるが、いたって普通のゴールとも言える。
このようなゴールがコンスタントに決められる技術を身につければ、チャルーンサクはさらに上のレベルに到達出来るだろう。
チャルーンサクのスピードを用いれば、ゴールチャンスを作る事は出来るが、キーパーの届かない場所に打ち込む事は出来ない。
今後、彼のシュートが、よりパワフルになる事を期待している。
改善:落ち着いて
1つのペナルティキックを除いて、チャルーンサクが得点したすべてのゴールは、彼が最も長い期間活躍していた、右サイドからのものであった。
彼のチームメイトは、チャルーンサクが相手ディフェンスの背後に走り込む事をよく見ている。
したがって、チャルーンサクのシュート成功率を上げるためには、全力でシュートを打つのではなく、打つ位置を見極めなければいけない。
たとえば、サイドから相手ゴールを狙う時は、キーパーが手を伸ばすとセーブされてしまう事があるので、ファーポストを狙うのが効果的である。
その為には、低めのシュートが理想的だ。
キーパーも、全力で叩き落そうとはするが、タイミングに合わせて反応するのは厳しいだろう。
チャルーンサクのゴールの中でも特に興味深かったのは、バーレーン戦(AFC U23選手権)での2点目のゴールだ。
ボールをリフティングしたテクニックも良かったが、1番興奮したのは、チャルーンサクがわざと少しだけスピードを緩めて、自分で打つ位置を見極めてからシュートを放っていた事だ。
チャルーンサクは、これまでの練習期間をヒントに、ゴール前で落ち着きを取り戻す事ができ、結果的にそれはゴールの質を上げる事へと繋がった。
改善:ボックス内にポジショニングする
チャルーンサクは、ウィンガーとしてスピードとクロス能力に頼っているが、チームがボールを支配している時は、相手のディフェンスフォーメーションを引き伸ばす為に、出来るだけ広い位置でタッチラインに沿ってポジショニングしている傾向がある。
このポジショニングセンスは、チャルーンサクがアシストを生み出す強みでもあるが、その一方で、スコアラーとしての彼の可能性を妨げてしまっている。
たとえば、多くのワールドクラスアタッカー(FWクリスティアーノ・ロナウド〈Cristiano Ronaldo〉やFWリオネル・メッシ〈Lionel Messi〉など)は、最初はワイドプレーヤーとしてスタートしたが、成長するにつれて、彼らの役割はインサイドフォワードへと進化し、相手の弱点をついた攻撃が出来るようになっていった。
同じことがチャルーンサクにも当てはまるだろう。
彼の潜在能力を最大限に引き出すには、ピッチの「内側」つまりインサイドで影響力を与えられるようにならなければいけない。
チャルーンサクを左ウィンガーに変えることは、効果的な判断ではないかもしれないが、別の解決策がある。
それは、右サイドから中央エリアに「移動」して来る事だ。
チャルーンサクは、加速力があるので、左サイドからのクロスやカットバックには、もっと積極的に仕掛けていくべきである。
たとえば、ポートとのアウェー戦(第2節)では、いつものようにワイドプレーをしていたチャルーンサクが、5.5メール先のボックス内へ素早く飛び出し、左サイドバックのDFエルネスト・プミファ(Ernesto Amantegui Phumipha)のカットバックを受けて、今季初のアシストを決めたのだ。
チャルーンサクは、シュートへと繋げる事が出来なかったが、幸運にも、ボールはFWチャヤワット・シーナーウォン(Chayawat Srinawong)へと跳ね返り、至近距離からゴールを決める事が出来た。
残念ながら、チャルーンサクのこうした活躍は、あまり見られないが、MFダニエル・ガルシア・ロドリゲス(Daniel García Rodríguez)がBGパトゥムからサムットプラカーンに加入した事で、状況が好転する事を期待したい。
スペイン人ミッドフィールダーであるダニエルは、左サイド後方からエルネストと連携し、ポートに勝利して、サムットプラカーンのデビューを果たした。
他のチームと比べて、サムットプラカーンの左サイドは、ダニエルは連携プレーに長けており、しばしばインサイドレフトへと向きを変えドリフトで切り込み、ミッドフィルターとして十二分の働きをする。
ここで、ダニエルの代表的なパスの1つでもある、ディフェンスの上をループさせるクロスパスを放つ事で、ファーポストを狙う事が出来るようになったのである。
この過程のシナリオでは、チャルーンサクはまだ、徹底したウィンガーとしてプレーする事になるだろう。
彼が変えなければいけないのは、ボックス内にもっと素早く飛び出してくる事だ。
チャルーンサクはすでに、ポジショニングとそれを実践させるために必要な速度と加速について十分に理解しており、その準備を始めている。
チャルーンサク・ウォンコーンはJリーグに通用するのか?
GKカウィン・タンマサッチャーナン(Kawin Thamsatchanan)とFWティーラシン・デーンダー(Teerasil Dangda)は日本を離れてしまったが、彼からが連れてきたタイ人選手ファンの為にも、Jリーグは、間違いなく後任選手を探すだろう。
ただ、単純にプレイヤーは、日本でも十分通用するものでないとならない。
チャルーンサクは、すでにタイのサポーターの間では人気があり、これは、彼にはマーケティング価値がある事を意味している。
また石井正忠監督をコーチとして迎えたことは、日本のクラブチームがチャルーンサクについて問い合わせをした時に、良い参考人になるだろう。
問題は、チャルーンサクがチームの守護神としてフルシーズンを終えていない事だ。
2019年のチャルーンサクは、スラポン・コンテープ(Surapong Kongthep)コーチと村山哲也監督らと共に躍進した一年で、その後は、石井監督とめざましいハーフシーズンを過ごした。
しかし、それでもまだ不十分かもしれない。
MFチャナティップ・ソングラシン(Chanathip Songkrasin 北海道コンサドーレ札幌)やDFテーラトン・ブンマタン(Theerathon Bunmathan 横浜F・マリノス)などのタイ人選手は、国内で少なくとも好調なまま1シーズンを過ごし、AFCチャンピオンズリーグでは目を見張るような活躍を見せていた。
幸運なことにチャルーンサクは、時間が味方してくれており、まだまだ可能性に満ち溢れている。
チャルーンサクには、仕事の自由を与えられた質の高いヘッドコーチがついており、また彼は一貫性を評価するクラブでプレーしている。
チャルーンサクは、すでにこの1年で、さらにゲームを盛り上げることが出来るという事を証明している。
私たちが彼に望んでいるのは、サッカーを続けてくれる事と、近い将来、夢であった海外移籍を実現させる事、そして彼の幸運を願っている。
この記事はThai League Centralからの翻訳です。(翻訳:安藤海)
元記事URL:https://thaileaguecentral.com/2021/01/02/tactical-analysis-jaroensak-wonggorn/